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【南森町雑記】「KYOTO STEAM 2022 国際アートコンペティション」を見てきたよ

「KYOTO STEAM 2022 国際アートコンペティション」を見てきました。

 

この展示は、京都市京セラ美術館の東山キューブにて2/13(日)まで開催されております。明日までです。気になった方はすぐ見に行ってください。東山キューブは京都市京セラ美術館の西側(平安神宮の大鳥居の側)にある入口からしか入れません。私はそれを知らずに敷地を一周することになりました。気を付けてください。

 

11もの作品が展示されており、下記リンクからはアーティストと企業・研究機関が作品について語る動画もあります。

下記の文章は私が各作品を見た時の雑感です。

 

 

 

○宮田彩加×株式会社SeedBank

《この視点×敬想曼荼羅》

制作者へのインタビューはこちらから。

 

ミシン刺繍のプログラムにあえてバグを加えるという独自の手法で創作を行う宮田彩加が、株式会社SeedBankから提供された珪藻(植物プランクトン)をモチーフに制作を行ったものです。

壁面に配置されている小さな丸形の刺繡から伸びるように大きなタペストリー状の刺繍が配置されていて、目を惹かれます。タペストリー状の刺繍には強い照明が当てられていて、後ろの壁面にひときわ大きな影を作っています。

これはきっと顕微鏡を通して見える景色の再現なのでしょう。

 

 

 

○佐藤壮馬×KYOTO’s 3D STUDIO株式会社

《Of Flowers》

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

数点の樹脂で作られた造形物が天井から吊り下げられていて、壁面には花の3Dモデルが映し出されたモニターと沢山のスピーカーが、床には整然と数字が入力された長い紙が垂らされています。全ての展示の中でこの展示の空間が最も白く明るく設定されています。展示空間の手前に設置されたモニターには葉を揉む人間の手が映し出されていて、この作品の触覚的な要素を強調しています。

スピーカーからは花にまつわる個人的なストーリー[葬式での菊の話など]が語られています。気になったのは、日本語以外の言葉でも語られていることです。鑑賞者の大半が日本語話者であろう展示において日本語以外の言葉を使うのは、言葉の目的がその内容を鑑賞者に聞かせることではなく、空間を音で満たすことが目的なのだと思いました。

 

 

 

○興梠優護×株式会社堀場製作所

《龍猫図》

制作者へのインタビューはこちらから。

 

株式会社堀場製作所の光を計測する技術と種々多様な油絵の具を用いて、人間の目では決して見ることの出来ない光の世界を描いた作品です。きっぱりと分断された光の世界を眺めることで、何にでもグラデーションを見つけようとする視覚の性質を思い知らされました。

絵画の左下に目立って配置されている猫だけが、どうしていわゆる猫らしい色合いのままなのか非常に不思議でした。

 

 

 

○三原聡一郎×mui Lab 株式会社

《空気の研究》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

木製のバーを持ちながら360度回転する木製のベンチに腰掛け、くるくると回ると、向いている方位の都市がバーに表示され、その都市までの距離とその都市の風景がドットで表現されたものが出力されます。カチカチというレトロな音、ベンチの斜め上に設置された一つきりのライトなどの効果で、精巧な技術の存在を忘れさせるような構成になっています。

マスクをしていたせいで分かりませんでしたが、かすかに木の匂いがした気がしました。

 

 

 

○Kikoh Matsuura×株式会社島津製作所

《Fragment of Evolution》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

全ての展示の中でもダントツに暗い空間の中で、セル状に分割された記号が細かく動き続ける映像が床と壁に映し出されています。この映像は、二つの質問「この地球で暮らし続けるには、どんな解決すべき問題があると思いますか?また、解決するにはどうすればいいと思いますか?」「あなたが望む世界の姿とは?」に答える実験協力者の脳をfNIRS(機能的近赤外分光分析法)によって分析して得たデータを制作者が古代文字のように変換したものです。そして、展示空間の中で流れている環境音のような音楽も制作者が手掛けています。

何故古代文字のようなものに変換しようと思ったのか。その辺りが最も知りたいところだと思いました。

 

 

 

○金子未弥×有限会社丸重屋

《失われた全ての記憶を讃えるために》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

うす暗い建築現場を思わせる空間の中に、『2001年宇宙の旅』のモノリスと見紛う鉄板が配置されていて、その表面に建築物の非破壊検査の測定方法を使った表現が貼りつけられています。薄暗い空間なのでよくよく目を凝らさらないと、線と文字で構成された表現を見ることは出来ないため、鑑賞者にじっくりと向き合うことを要請する作品です。

基礎等の非破壊検査はこの展示空間のようなドラマチックな空間で行われることは殆どなくて、そこらへんの橋や道路で行われているものです。この作品において、当たり前の場所で行われている、という要素を削ぎ落したのは何故だろうかと思いました。

 

 

 

○川松康徳×国立研究開発法人理化学研究所 植物-微生物共生研究開発チーム

《NARRATIVISUAL:β ある植物学者のパラノイア 前頭葉に発芽して欲望を食べる無花果》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

植物セラピーの様子をアートという形式で再現しようとしている作品です。透明な板で不鮮明に書かれた文字に光が当てられて裏地の壁に影をつくることで、言葉が本来持つあやふやささが強調されているように思いました。

展示空間の奥には植物の種とそこに降り注ぐ日光があり、言葉ではないものによって気持ちが明るくなるような錯覚が強烈に押し迫ってきます。

 

 

 

○三木麻郁×国立病院機構新潟病院臨床研究部医療機器イノベーション研究室

《とほく おもほゆ》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

機器と材料さえあれば、誰でもどこでもなんでも作れてしまう3Dプリンターが宇宙でも稼働する未来がすぐそこに迫っています。全て3Dプリンターで制作可能な人工呼吸器という革新的でありながら切実な機器を、展示空間に並べた人工呼吸器に空気を入れることで、楽器(音≒声≒空気)のように捉え直してしまうというアクロバティックな作品です。

急いで作品を見ている人は見逃してしまうくらいの長いスパンで空気の注入が行われていたので、人工呼吸器が並んでいるだけにしか見えなかった人がいて、それが非常に残念でした。

 

 

 

○山崎阿弥+マイケル・スミス-ウェルチュ×Konel

《lost in the wind rose》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

羽を被せた島のようなものが、人感センサーに合わせて振動し、それに呼応するように人の声か獣の咆哮のような音が上から響いてきます。作品の周りの鑑賞者の動きを風と捉え、作品を通して風を表現し直すことで、鑑賞者は自らの動きが生み出した何かを目撃することになります。

羽のようなものはダイナミックに動きますが、風のような動きというよりは、羽を被った見たこともない生き物の初めて見る動きという風情でした。

作品の脚を支える木の板がとても繊細で丸っこくて素敵だなと思っていたのですが、制作者の一人マイケル・スミス-ウェルチュ氏が制作したものだと知って感動しました。

 

 

 

○金森由晃×株式会社フジックス

《Pillar of light》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

四角の木枠で成形された糸の柱が9本(9色)吊り下げられています。ゆるやかに回転したり揺れたりする糸の柱は、鑑賞者がどの位置から見るか、つまりどの柱とどの柱が重なったところから見るかによって、大きく色を変えます。鑑賞者がある程度自主的に自らが見る色を選ぶことが出来る、とても主体を尊重した作品です。

 

 

 

○大西康明×福田金属箔粉工業株式会社

《石と柵》

 

 制作者へのインタビューはこちらから。

 

円柱型に柵が張り巡らされ、その内側から半円形の銅が貼りつけられています。柵の外側から眺めるだけでは、丸い銅の塊がこちらを向いているだけとしか思えませんが、柵の内側に入って眺めてみると、それぞれが質量を持たない銅箔であることが判明します。また、銅箔の形状がそれぞれ異なること、錆によって全ての色合いが異なることも見て取れます。

薄くて軽い銅箔にも確かな存在感があるという事実が迫って来る作品です。