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【南森町雑記】エーステを見た

2022年の一月はじめから五月末にかけて、MANKAI STAGE『A3!』(以下、エーステ)をSPOOXの配信で視聴しました。

下記の六公演を視聴しました。左に振っている数字は私が視聴した順番です。

②SPRING & SUMMER 2018

③AUTUMN & WINTER 2019

⑤SPRING 2019

①SUMMER 2019

④AUTUMN 2020

⑥WINTER 2020

 

どうして公演順と異なる順番で見たのか、それはこの文章(演劇の二次創作性を前景化するものとしての2.5次元: MANKAI STAGE『A3!』~SUMMER 2019~ | 零貨店アカミミ)で主に紹介されていたのがSUMMER 2019だったからです。その後も公演順と視聴順がズレるのは単なる偶然です。

エーステを見ることになったもう一つのきっかけは、MANKAI MOVIE「A3!」(エームビ)のCMを見て、フルメイクカツラ装着男子たちが大きな風呂に入っているシーンがあまりに面白かったからです。つまりこの時点では、歌舞伎を変な隈取と変な声の出し方と変な動きの娯楽と捉えるような感じでエーステを見ようとしていました。今振り返ると、過去に実在性ミリオンアーサー(不出来な脚本と全力の与太話がミックスされているガールズエンターテイメント)を楽しんでいたので、何となく(何故か)持っていた2.5次元への偏見を取り払う機会さえあれば、2.5次元を問題なく楽しめるようになったのだと思います。

 

まさに私にとって2.5次元の導き手となった文章で推されていた男、斑鳩三角≒本田礼生を見るためだけに、私はSPOOXのエームビ完全攻略チャンネル(月額約千円)に加入することになりました。当初の予定では二ヶ月ほどで全て視聴する予定でしたが実際は半年かかりました。

舞台の上での斑鳩三角は確かに凄かったです。他のどのキャストよりも鋭い動きで舞台を駆け回り、人間の俳優が演じているのではなく斑鳩三角というキャラクターが生きていると思わせるような演技を見せる別格な存在でした。

 

ぼやっと斑鳩三角に注目しながら見ていたところ、他にとても気になるキャラクターが出てきました。その強烈な自意識をいじられ、リーダーとしての責務を抱える姿を愛されている男、そう、皇天馬≒陣内将です。私は前々から自意識が強めな愛されキャラが好きなのでさもありなんという感じです。

特に、皇天馬が斑鳩三角から三角定規を渡される場面(おそらくSPRING & SUMMER 2018)で、皇天馬がその三角定規の大切さを理解していることが“分かる“ところが最高でした。普段誰かに愛されている人にしか分からない、誰かから大切なものを渡されることの重さを理解しているあの感じ。私は原作の皇天馬を全く知りませんが、舞台の上の皇天馬は完璧だと確信しました。あの可哀想な、でも信頼できる、でも目を離したくない雰囲気を出せるところが本当に凄いです。

 

そしてもう一人、強烈な自己規定を抱えながら生きる黒髪長身男性、神木坂レニにも心を奪われました。監督の父親(おそらく演劇クズ)を憎むあまりその姿を過度に内面化し、結果的にGOD座を栄光ある劇団たらしめた彼のあり方がとても好みでした。舞台の上で美しい振る舞いさえしていれば、言動の殆どがDV夫みたいな人間でも美しく見えるということを、実際の人間が演じていることでより生々しく感じることが出来ました。

基本的に優しい人間ばかりが所属しているMANKAIカンパニーでは掬いきれない、つらい意味で演技することでしか生きていけない人間を収容出来る場所がビロードウェイ(A3!の舞台)には存在することを、GOD座の厳しい様子から窺い知ることが出来るところに救いを感じました。

 

舞台は基本的に舞台の上で行われることの全てを観客が見られるように作ってあると思いますが、配信で視聴すると場面場面でカメラがメインキャストに寄るので、写っていないキャストがどんなに魅力的な演技をしていようと配信で見ることは出来ません。なので、六公演を配信で見終わった今も、エーステを六公演見たというよりもエーステの上質な公式切り抜きを見たという気持ちでいます。

配信で視聴して良かったところもあります。そう、汗です。例えば、シトロン≒古谷大和は胸元が大きく開いた服を着ているので、歌とダンスの後にシトロンにカメラが寄ると彼の胸元に汗が流れているのがハッキリと見えます。いや本当に生々しいんです。

それと、カメラが寄ることによって演技の近さが分かりやすくなっているところも良い点です。近寄って肩に手を置く演技があったとして、スムーズに肩に触れているのか逡巡して触れているのかがとても分かりやすくなっていて、目の悪い私は非常に助かりました。

他にも、手錠をしながらダンスする場面(おそらくAUTUMN & WINTER 2019)で、そこには色々と編集可能な映像では出てこないであろう動きのぎこちなさがあって、生身の人間が動いているのを見ると冗談じゃないくらい心が動かされちゃうところが楽しくもあり不可解でもありました。

さらには客席降りをしているキャスト全員の様子が見られるところも良い点です。客席で愛想を振りまくシトロンの表情とスンとした茅ヶ崎至≒立石俊樹(とにかく本当に顔が良い)の表情の両方を楽しめる配信は祝福されるべきです。

 

一旦エーステを見終わったいま、初めてまともに見た2.5次元作品が松崎史也演出のエーステだったということが、未来の私に何らかの影響を及ぼすのだろうかと、別の2.5次元作品を見るたびに松崎史也の演出と違うと思い続ける人になっているのだろうかと、楽しいような不安なような気持ちです。

 

最後に、だらだらと視聴を続けていた私にお付き合いいただき、色々とご助言をくださった方に感謝申し上げます。おかげさまで私のエーステ体験は幸福そのものでした。ありがとうございます。