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【南森町雑記】サーキュラーを考える三冊

南森町三郎にとってのサーキュラーを考える三冊です。

 

 

『フィールド・レコーディング入門』

柳沢英輔

 

深海生物を研究している人の本に「人類は宇宙を探検する前に深海を調査するべき(大意)」と書いてあったことを今でもボンヤリと覚えています。また、石川雅之の『もやしもん』を読んで、肉眼で見える世界は極めて限定された世界であることを知りました。

本書を読むと、人間が耳で認知できる世界は技術によって拡張可能であることが分かります。つまり、私達はどこか遠くに行かなくとも「今ここ」をまだまだ楽しむことが出来るのです。月並みな表現ですが、浅く広い楽しさではなく狭く深い楽しさを追及していくきっかけになる本です。

 

『映画という《物体X》』

岡田秀則

 

映画用フィルムに使われてるゼラチンは牛由来のものであることを本書で知りました。映画は体験とか記録とかそういった抽象的なものである以前に物質です。本書には、映画というものを構成する様々な制度や作品とともに、映画を構成する(していた)フィルムの物質性の重要さが書かれています。かつてコダック社が、写真乳剤に使う安定したゼラチンの確保のために、牛の飼育に試行錯誤していたことまでもが書かれています。

最終的には記憶しか残らない娯楽の中にも、当然のように物質が沢山使われていて、それらを辿ると殺された生物に辿り着くことが分かる本です。

 

『エコラリアス』

ダニエル・ヘラー=ローゼン

 

本書は言葉についての本です。言葉とは即ちこだまなので、必ず誰か(何か)に向けて発されるものです。

本書の白眉は、イベリア半島に移ったアラビア語話者がスペイン語をアラビア語に置き換えた話、絶滅を危惧された言語がその一字一句に至るまで保存された(他者との交流によって絶え間なく変化していくという言語の基本的な機能を失った)ことによって、本当に絶滅してしまう話です。言葉という漠然と自明な存在のことを、ほんの少し踏み込んで考えただけでもその複雑さに恐れおののくことが分かる本です。