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【南森町雑記】持田敦子「Steps」を体験しました

「Open Storage 2023 -拡張する収蔵庫- 持田敦子 拓く 2019-2023」(MASK [MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA](大阪・北加賀屋)にて11/5まで開催)に展示されている持田敦子の「Steps」を見て登ってきました。

持田敦子の作品を実地で見たのはこれが二回目で、一回目は長野県飯田市の「解体 / Unbuilding」でした。家を使う人がいなくなって、雨漏りなどのダメージなどが重なって天井が落ちて、床が腐った家を何軒か見たことはあるのでなおさら、家が崩壊する途中を人為的に固定しようとする試みは奇抜なものに思えました。

 

「解体」で特に印象に残っていることで、安定した道路や崖の下の平地ではなく、そこそこ不安定な家の床にドリンクサーバーを設置してカンパを受け付けていたところがとても不思議でした。あれがある種のボランティア的な試みに必要な大らかさなのでしょうか。カンパすると貰えるポストカードには、実地でまさに今見えている崩壊を仮止めされた家ではなく、私が今立っているこの家を遠くから撮影した写真の上に、家の端から端までグラデーションのように崩壊していく様子が上塗りされた画像が印刷されていました。あれが「解体」のコンセプトアートだったのかもしれません。

コンセプトと実地で見えるものがあまりに遠いと、別物に見えるのはよくあることですが、その日は、人が床を踏む音や木材のカビっぽい匂いこそがリアルだという気持ちがとても強かったように思います。もちろん、各人の、脳をはじめとする体が情報を処理しているという意味では、その場にいる確からしさなんて程度問題に過ぎません。

 

では、なぜ私は「解体」の家を特にリアルなものに感じたのかというと、ひとえに怖かったからです。崖に貼り付くように建っている家が、屋根を外した状態で置かれているわけなので、当然のように床が傷んでいました。結果として、崩れそうな床をえっちらおっちら歩くことになりました。これが非常に怖い。

北加賀屋の倉庫で「Steps」を登りながら、その恐怖に今の恐怖を重ねていました。「解体」の怖さの方がまだマシでした。床が傷んでいるとはいえ基礎がしっかり残っていた「解体」に比べ、「Steps」は単管パイプの足が簡易な固定で設置されているだけなので、単管パイプに固定された踏板を上に上に登るたびに揺れがひどくなりました。軍手をつけて両手で手すりを持ちながら登ることを注意されていたので、しっかり姿勢を安定させていれば揺れることはないと思っていましたが、甘かったです。クランプ(手すりの固定器具)でしっかり固定されていると思っていた手すりがめちゃ不安定でした。手元も足元も不安定、これは本当に怖いです。

 

会場に整理されていた持田敦子の作品を見ていると、不安定なものをいかに作品にするのかというテーマがあるように思えてきました。「T家の転回」も本来は安定しているはずの床がぐるっと回転する不思議な作品です。近いもので言うと、私はターンテーブルも不安定で好きじゃないんですが、狭い敷地を有効に利用しようとする苦肉の策だと思えばターンテーブルは愛しく思えてきます。しかし、何のエクスキューズもなしに回る床はそれだけで怖いものです。